🧠 安全対策は非効率?——プラント現場23年の私が見た“面倒の中にある命の価値”


目次

はじめに

「この安全柵、今日もつけるんですか?」

現場で若い作業員にそう聞かれたとき、私は思わず苦笑いしました。
そうだよな。時間がかかる。面倒だ。効率も落ちる。

けれど、ふと思うんです。
安全を“面倒”だと思い始めたとき、危険はもう、目の前まで来ているのかもしれない。

事故は、ある日突然起きるわけではありません。
「まあ大丈夫だろう」という油断が、少しずつ積もっていって、
静かに、確実に、危険を呼び寄せてしまう。

今日は、プラントの現場で23年働いてきた私が、
“安全対策の裏にある人間の心理”と“命を守るということの本当の意味”を、少しだけお話しします。


現場は、効率の波にさらされている

プラントのメンテナンス現場では、点検・整備・草刈りまでが仕事です。
古い設備では、交換部品がもう手に入らないこともあります。

機械が古くなってくると故障が多くなって対応に追われます。

だから、常に時間との戦い。
“効率”を求める声が上がるのは当然のことです。

「もっと早く」「もっと楽に」。
誰かがそう言えば、誰も否定はできません。
でもそのたびに、“守るための手間”が少しずつ削られていく。

安全対策は「余計な作業」ではなく、
人を家に帰すための設計図なんです。
けれど、その意味を忘れてしまう瞬間が、現場には確かにあります。


「大丈夫だろう」が忍び込む瞬間

安全確認をしていると、人は安心します。
「測定した」「問題なかった」――それだけで、心がゆるむ。

でも、“確認したつもり”がいちばん危ない。

ある日、地下の作業がありました。
地上から酸素濃度と有害ガスを測定し、問題なし。
送気ファンを回し、換気を続けながら作業を開始しました。

何の異常もなく終わったと思ったその瞬間、
最後に測定した酸素濃度が、作業前より下がっていた。

危険ゾーンではありません。
でも、なんだか、胸の奥がざわつきました。
……おかしい。空気の“重さ”が違う気がした。

「大丈夫だろう」
そう思った自分の声が、あとから耳の奥で響きました。


見えない危険こそ、最も怖い

酸欠は、音もなく忍び寄ります。
息苦しさも、匂いも、何もない。
気づいたときには、もう倒れている。

怖いのは、事故そのものよりも、その静かさです。

現場の誰もが恐ろしさを知っているはずなのに、
何も起きない日々が続くと、感覚は鈍っていく。
「今日も問題なかった」——それが続くほど、危険の芽は育っていく。

安全とは、結果ではなく、
“確認を繰り返し続ける姿勢”そのもの。

問題がない日こそ、もう一度だけ確かめる。
それが命を守る、最も地味で、最も確実な行動です。


「死」がすぐそこにいた日

作業を終えて、地上に戻った。
念のため、酸素濃度を確認してみた。
大丈夫だろうと思っていたが、数値が……下がっていた。

危険値ではない。
でも、なんだろう、この違和感。

あの時の風の流れ。
ファンの音。
それらが急に遠く感じた。

“ギリギリだった”と思った瞬間、
背中を冷たいものが這い上がってきたのを感じた。

……もし、あと一時間長かったら。
もし、誰かが気づかなかったら。

今ここで、こうして話していないかもしれない。

「安全って、こういうことか」
その時、やっと分かった気がした。

安全は信頼の上にしか成り立たない。
だから、私は今なら迷わず言う。

「地上で酸素濃度の計器をモニターする人員を配備しろ」

それはルールだからではなく、
生きて帰るための最低限の約束だからだ。


それでも、守るということ

正直に言えば、もう続けたくない。
この仕事は、手間がかかり、安全ではない。

危険はいつも隣にある。
それを分かっていて、それでも“動かし続けなければならない”。
その矛盾の中で、私たちは働いている。

たまに思う。
「なぜ、ここまでしなきゃいけないんだろう?」と。

安全対策をしても、事故はゼロにはならない。
効率を上げようとすれば、安全が削られる。
そして、何も起きなければ「それが当然」になる。

現場は、そんな静かな緊張の上に立っている。

それでも思うんです。

“安全を守る”というのは、会社のためでも、仕事のためでもなく、
「もう一度、家に帰るため」なんだと。

誰かのもとに帰り、明日また笑えるように。
そのための手間なら、惜しくはない。


終わりに:面倒の中に、命がある

安全は、誰にも気づかれない仕事です。
何も起きなければ「当たり前」と言われる。
でも、その“当たり前”を守るために、
今日も誰かが汗を流している。

面倒だと思うその作業のひとつひとつに、
誰かの命が隠れているのかもしれません。

面倒の中に、命がある。
それを知っている人間が、現場を支えている。

どうか、明日の現場でも。
その一手間に、ほんの少しの誇りを込めてください。

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