過去から探さない。未来起点で始める人生の棚卸し

私は50代後半になった頃、漠然と人生このままでいいのかな、定年後の生活、経済をどうしようと考えるようになりました。第2の人生と言ったらカッコつけているようですが、会社から離れたら自分に何が残るのかな、年金で生きていけるのかな、副業で収入を増やせないかな、そんなことをぼんやり考えていました。

こんなことを考えている人がネットで悩みを検索すると、たぶん「人生の棚卸し」というのが出てくるんじゃないかと思います。

人生を振り返って自分にはどんな経験があるだろうか、どんな強みがあるだろうかを探す、そして、その強みを生かせる場所を探しましょう。大雑把に言うとこんな感じでしょうか。もちろん色々な意見があるとは思いますが、過去を振り返るという仕組みは、どれも大体変わらないような気がしました。

やってみて、自信がなくなりました。

というか、自信をなくしたというより、自分には専門性がないんだな、ということがはっきりしてしまった、というほうが近いかもしれません。私は20年以上、施設の維持管理の仕事をしてきました。

施設といってもピンとこないかもしれません。どこの家庭にもある洗濯機で説明すると、洗濯機なら、洗濯→すすぎ→脱水→乾燥と工程が進みます。施設でも、こういう感じで工程の上流から下流に向かって作業が進んでいくんです。これらの工程の操作や、監視、メンテナンスをするのが私の仕事です。

施設には機械があって、それには電気が必要で、材料も必要です。そして、これらには専門家がいます。機械の専門家、電気の専門家、材料の専門家、まだまだいます。機械といっても、その機械の役割を決めて設計できる人、動作するように精密に組み立てる人、運搬する人……電気にしても材料にしても、さらに専門家がいるわけです。

専門家たちが作り上げた仕組みを動かしている、メンテナンスをしてきただけの私は、彼らにはかなわないな、といつも感じていました。

これが、自信がなくなった背景です。

彼らの専門性こそが強みであって、私はそれに乗っかっていただけ。強みとは言えないんじゃないか。果たして自分に強みなんてあるのかな。第二の人生に使えるものがあるのかな。……これが、正直な感想でした。

極端だと思われるかもしれません。ただ、棚卸しをして、しっかりと自分の強みを見つけられる人のほうが、実は少ないんじゃないかという気もしています。

もちろん、この方法自体が間違っているとは思いません。ただ、過去を振り返っても、自分の強みがよく分からないことがある。あるいは、強みらしきものが見つかっても、それをこれから何に使えばいいのか分からないこともある。少なくとも、私はそうでした。

過去からではなく、未来から考えてみる

そこで、少し順番を変えてみることにしました。

過去を振り返って「自分には何があるだろう」と考えるのではなく、先に「これから、どうなれたら嬉しいだろう」と考えてみる。

何故そう思ったのかというと、以前新しく冷蔵庫が欲しかった時、どうやって冷蔵庫を決めたのか、その時のことを思い出したのです。

店頭で実際に行ってみて、こんなのがあったらうれしいなという冷蔵庫を見つけて、それから予算とか置くスペースを考えるのか、今の現状から見て同じように予算やスペースを確認してからそれに合う冷蔵庫を選ぶのか。

その時は冷蔵庫を選んでから後のことを考えました。

それと同じように考えて見ようと。

立派な目標じゃなくていい。

転職したい、副業で稼ぎたい、独立したい。そんな言葉でもいいのですが、もう少しだけ先まで考えてみる。

どんな一日を過ごしていたいのか。誰と関わっていたいのか。何を自分で決めたいのか。逆に、何をもう我慢したくないのか。

たとえば「副業をしたい」と思ったとしても、それだけでは少しぼんやりしています。

お金を増やしたいのかもしれない。
会社だけに頼らない安心感が欲しいのかもしれない。
それとも、自分が長年やってきたことを、誰かの役に立ててみたいのかもしれない。

同じ「副業」でも、欲しい未来は人によって違います。

だから私は、まず「こんな未来なら、ちょっと嬉しいかもしれない」という程度の未来を置いてみることにしました。

人生の最終決定ではありません。

とりあえず地図の上に、仮の目的地を置いてみるようなものです。

未来を置くと、過去の見え方が少し変わった

私の場合、こんな未来を考えてみました。

本業を続けながら、無理のない範囲で情報発信をしている。自分が長年やってきた仕事の経験や、そこで考えてきたことを文章にして、必要としている人に届けている。

毎晩何時間も作業するわけではない。

30分から長くても1時間くらいです。

週に何回か、自分で決めた時間に作業する。

そして、「自分の経験が、誰かの役に立った」と感じられる。

考えてみると、私が欲しかったのは、単純に「副業で稼ぐ」ということだけではなかったのかもしれません。

そうすると、今度は別の疑問が出てきます。

「そんな自分になるには、何が必要なんだろう?」

文章を書く力は必要そうです。

人の悩みを理解する力も必要かもしれない。

情報を整理する力もいる。

SNSの知識も必要になるでしょう。

もちろん、今の自分に足りないものも出てきます。

ここで以前なら、

「やっぱり自分には無理だ」

と考えていたと思います。

でも、今回は少し違いました。

足りないものが見つかっただけです。

それなら、勉強すればいいものもある。誰かに頼めるものもある。AIや道具を使って補えるものもある。

「足りない」ということと、「自分には価値がない」ということは、どうやら同じではないらしい。

この違いは、私にとって結構大きな発見でした。

そして、もう一度過去を見る

ここで初めて、過去を振り返ってみます。

ただし、今までのように、

「自分の強みは何だろう?」

とは考えません。

「今考えている未来に、使えそうな経験はないだろうか?」

と探してみる。

すると、少し妙なことが起こります。

以前は「ただ仕事をしてきただけ」と思っていた経験が、違って見えてくるんです。

設備に異常が起きたとき、表示された数字や運転状態を確認して、どこがおかしいのかを考える。

いきなり部品を交換するのではなく、原因を切り分ける。

必要な対応を決める。

そして、それを他の人に分かるように伝える。

これまで私は、そんなことを「設備管理の仕事だからやっているだけ」と思っていました。

でも、未来を「情報発信」に置いてみると、

「これって、文章を書くときにも使えるんじゃないか?」

と思えてきました。

複雑なものを整理する。

原因を切り分ける。

手順にする。

相手に合わせて説明する。

そう考えると、私が「専門性がない」と思っていた20年以上の経験の中にも、別の使い道があるように見えてきます。

ここで、少し考え方が変わりました。

強みというのは、最初から自分の中に名前付きで置いてあるものではないのかもしれない。

「あなたの強みはこれです」と言われるものではなく、これから向かう場所が決まったときに、「これは使えそうだ」と見えてくるものもある。

少なくとも、私にはそのほうがしっくりきました。

足りないものがあっても、そこで終わらない

もちろん、何でもできるわけではありません。

文章を書くのが苦手なら練習が必要です。

SNSのことを知らなければ覚える必要がある。

デザインができなければ、テンプレートを使ってもいいし、AIに手伝ってもらってもいい。

必要なら誰かに頼んでもいい。

以前の私は、「できないこと」が見つかると、それを自分の弱さの証拠のように受け取っていました。

でも、未来を基準にして考えると、少し違って見えます。

必要なものが足りない。

だったら、どう補うかを考えればいい。

全部を自分一人で持っている必要はない。

会社の仕事だって、そうでした。

一人ですべての機械を作っているわけではありません。

機械の専門家がいて、電気の専門家がいて、材料の専門家がいて、それぞれの人が自分の役割を持っている。

それなのに、自分の人生だけは「全部、自分でできなければならない」と考えていた。

考えてみれば、ずいぶん厳しいルールを自分に課していたものです。

だから、いきなり人生を変えなくてもいい

ここまで考えても、「では明日から副業を始めましょう」とはなりません。

むしろ、そこまで急がなくていいと思っています。

まずは一つだけ試してみる。

自分が経験してきたことを、短い文章にしてみる。

誰か一人に読んでもらう。

興味のあるテーマについて、一記事だけ書いてみる。

30分だけ、理想の一日を考えてみる。

それくらいでいい。

やってみて、「なんか違うな」と思ったら、未来のほうを変えてもいい。

最初に置いた未来を守ることが目的ではないからです。

未来は、目的地というより、今の自分を見るための仮の視点なのかもしれません。

その視点から自分を見てみる。

使えそうなものを見つける。

足りないものを知る。

少し試す。

違ったら、また見直す。

そうやっているうちに、最初はぼんやりしていた未来が、少しずつ自分のものになっていく。

そんな棚卸しでもいいんじゃないかと思っています。

私なら、この6つから始める

もし実際にやってみるなら、難しいことはしなくてもいい。

紙でもスマホでもいいので、まずこんなふうに書いてみます。

私は、これからどうなれたら嬉しいだろう?

そして、

その自分になるには、何が必要だろう?

今までの経験で、使えそうなものはないだろうか?

まだ足りないものは何だろう?

それは、自分で身につけるのか、誰かに頼るのか、道具で補うのか?

最後に、

まず小さく試すなら、何ができるだろう?

これだけです。

「自分の強みは何ですか?」と聞かれて何も浮かばなかった私でも、この順番なら少し考えやすくなりました。

強みを無理やり発見する必要がないからです。

未来を一つ置いて、その未来に使えそうなものを、過去から拾ってくる。

それなら、20年前の経験でも、30年前の失敗でも、案外使えるものが見つかるかもしれません。

マニュアルは、一回作って終わりじゃない、気がする

人生の棚卸しというと、一度きちんと分析すれば、その後ずっと使える答えが見つかるように思っていました。

でも、実際の人生は、そんなにきれいには進みません。

環境も変わる。

体力も変わる。

興味も変わる。

一緒にいる人も変わる。

昨日まで大事だったことが、今日はそれほど大事ではなくなることもある。

だから、強みを固定しなくてもいいのだと思います。

その時の自分が向かおうとしている場所で、

「今までの経験の中に、使えるものはないだろうか?」

と、また見直せばいい。

設備の仕事でも、マニュアルは一度作ったら終わりではありません。

設備が変われば見直す。

やり方が変われば修正する。

トラブルが起きれば、また書き足す。

人生の棚卸しも、それくらいでいいのかもしれません。

過去を整理して、人生の答えを出す。

そうではなく、

これから行きたい場所を仮に決めて、そこから過去をもう一度見てみる。

そのほうが、私には少しだけ前を向ける棚卸しに感じます。

まずは、

「私は、これからどうなれたら嬉しいだろう?」

と書いてみる。

答えが立派じゃなくてもいい。

途中で変わってもいい。

もしかすると、未来を考えたあとで振り返った過去には、今まで気づかなかった「使えるもの」が、ひとつくらい転がっているかもしれません。

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